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『名前…なんつうの?』
何曲目かを歌い終えた俺は、目の前の彼女に問い掛けた。
『リィ。』
すると彼女は、短く答えてうっすら顔を緩ませた。
『リィ?』
『うん。みんな…そう呼ぶ。』
微笑む彼女の目には、もう涙はない。
『そっちは?』
『俺は…隼人。』
『ふぅ~ん。いつもここで歌ってんの?』
『まぁ~…たまにな。』
『そうなんだぁ。また…聴きに来てもいい?』
心なしか、淋しそうな声の彼女に気付かない振りをして
『もちろんっ!!』
俺は力強く返事をして、ギターをケースに仕舞い始めた。
『じゃぁ、俺そろそろ帰るな。』
『うん。またね…。』
そして、リィと名乗った彼女と俺は、別々の方向へ歩いて行った。
桜が咲き乱れる春…
これが、リィとの出会いだった。
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