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『退屈じゃねぇ?』
『全然っ!!もっと歌って!!』
『え゛~!!じゃリクエストは?』
俺がそう言うと、リィは決まって
『いつかのメリークリスマス』
と笑顔で答える。
『またかよ…』
苦笑いを浮かべながらも、リィがリクエストをくれた時は必ず歌ってやる。
この温かい風の中で、X'masソングを歌う違和感にももうすっかり慣れた。
季節はもう夏。
蒸し暑い夜でも、リィは変わらず俺の前に現れた。
春と変わらず、
ジーパンに長袖姿で…
そのの日もリィは
『暑いねぇ。』
なんて言いながら額の汗を拭うくせに、袖を捲ろうとはしない。
『そんなんじゃ暑いの当たり前だろ?もっと薄着すりゃ~いいのに!?』
リィにそう言ってみたけど、リィは少し困った顔をして
『家はクーラーが効きすぎて寒かったから…』
と、俯いた。
だけど、その次も、その次も…
蒸し暑い熱帯夜の中でも…
リィは変わらずジーパンに長袖姿で、目に涙を浮かべて俺の前に現れた。
きっと…
服装にも…涙にも…何か理由があると思いながらも、臆病な俺はやっぱり聞く事ができなくて…
いつも精一杯の笑顔を向けるリィの裏に隠された闇がある事に、気付かない振りをし続けた。
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