シンデレラ

10/16
前へ
/25ページ
次へ
室内に入ると、心地良いリズムが奏でられている。 アンソニーがキュッと手を握りなおして、軽く一礼をすると背中に手を回し、私をリードしてくれた。 私達は言葉を発する事なく、ただじっと見つめ合いながら踊っていた。 アンソニーは優しく微笑んでいたが、時々ひどく悲しい顔をしているように見えた。 今私はどんな顔をしているんだろう。 ちゃんと笑えているのだろうか? 変わってしまった私を見て彼は何を思うんだろう… ふと、手に力が入る。 アンソニーの手から伝わる柔らかな温もりが、とても懐かしく私の胸をズキンとさせた。 今も変わる事ないその温もり。 だけどこの先、感じる事は出来ないこの温もり。 胸が締め付けられて、涙がこみ上げてくる。 大好きなこの手を、先に離してしまったのは私だったのに。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加