…序章…

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    夕暮れ時になると、それまで寂れていた街が、ところどころ花咲くように行燈に火を燈し、本来の姿を見せた。   「鵬遊天楽」(ホウユウテンラク)。 唯美で格式ある遊郭や呉服屋などが立ち並ぶその街は「月下の艶美な楽園」と謳われる遊楽街である。   この世にはいくつも存在する遊楽街だが、鵬遊天楽は規律のもとで統括のとれた街であるため、治安もよく、品質の良い食や酒と遊女で世界一栄えている街だ。   中でも、街の中央に佇む美麗な楼閣・「儚懐楼」(ボウカイロウ)と聞いて「知らぬ」と答える者はまずいない。   そして儚懐楼楼主・鵺狐(ヤッコ)が街を統括し、監視しているのだが、その鵺狐が、薬草狩りに行くと言い街を出て三日後。 まるでボロ衣のような少女を抱え鵬遊天楽に戻り、「鵺狐姉さんが死人を連れ帰った」と普段なら月光を待ち兼ね眠る白昼の街を騒がせたのは、四日前のことである。
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