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…というのも、鵬遊天楽は、お客と性行為をすることを禁じている。
その理由は楼主にしかわからないらしいが、そういう面でも、鵬遊天楽は他の遊郭街とは違っていた。
荒れ果てた廃村のような村にいた幼い少女。
紛争で親を失い路頭をさ迷っていたり、孤児院で生活していた幼い少女。
そんな少女らの中から、見込みある少女を楼主は旅の土産のように連れて来る。
そして少女たちに幼い頃から貞操堅固を根底とした淑徳や行儀作法などの教養と、その後、遊女としての振る舞いや儚懐楼ならではのしきたりを教えるらしい。
そんな儚懐楼の遊女たちは、太夫はもちろんそうでない遊女たち全てが、身請けまで操を守り、教養ある聡明な女たちであるため、正妻、または子息の妻として、華々しく儚懐楼を去る者が多かった。
「女の牢獄」と呼ばれる遊郭、しかし儚懐楼の遊女たちはそんなことを微塵も思ってはいない。
自分も同じく手土産の如く楼主に拾われ九死に一生を得た雛桜は儚懐楼で生活するようになりかれこれ半年ほど経つ。
しかしその眼で儚懐楼を目の当たりにした雛桜も当初は驚いた。
毎夜儚懐楼を賑やかにする客たちも気品や品性に優れ、想像していたような卑猥な客などいないことに、この遊郭にして客も客だと。
(そんな儚懐楼の楼主である鵺狐さんって…きっと凄い方なんだろうな…)
そんなことを思っている間に、雛桜はすっかり着飾っていた。
深みと上品な光沢のある紅いの生地に贅沢に桜吹雪が描かれたきらびやかな着物。
夜靡からの貰い物だが、着る機会もなく宝の持ち腐れになっていた物だ。
さらには髪までも念入りにくしを通し結われ、赤珊瑚の珠と珍しい薄桃色の琥珀で満開の桜をイメージされ作られた美しい簪がさしてある。
雛桜はそれこそ、夜靡の禿である自分がこんな格好していいのかと思えるほどの状態になっていた。
しかし、着物も簪も夜靡からのおさがりではあるが、雛桜に似合う物をと選ばれた物であるだけに、その姿を見た夜靡は満足そうに頷き、それを見て今更何を言っても遅いと悟った雛桜は苦笑を浮かべた。
そして溜息混じりに、夜靡に「月の御方と言うのはどういう人なのですか?」と言おうとしたところで、雛桜は夜靡に半ば強引に引っ張られるように部屋から連れ出されていった。
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