私がいてもいなくても

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虚しさを抱えながらも眠りに落ちる毎日。 またいつもと変わらない明日がくるのが嫌で、眠りも浅い日々。 そんなある日の深夜、目の裏がやけに明るく感じて目を覚ました。 電気をつけたまま寝てしまったかなって思ったけど、どうやらそうでもないらしい。 目を開けると窓の外が真っ赤だった。 驚いて跳び起きる。 火事っ!? 私は慌ててベランダへ飛び出した。 けど燃えていたのは私の住むこのマンションではなく、すぐ近くのマンション。 炎が闇の中、立ち上る。 消防車のサイレンが、救急車のサイレンが、けたたましく辺りに鳴り響いている。 私と同じように、このマンションからその光景を眺めている人がいるのだろう。 扉の開ける音が聞こえてくる。 私は寒い空気に身を震わせ、コートを羽織って、玄関を出て鍵をかけた。 今は2月。季節は冬。 真冬なのだ。 寒くて当たり前。 私はてくてくと当たり前のようにあの火事現場の近くへ野次馬をしに向かう。 歩いていると、私と同じように野次馬の方々がたくさん見えた。 近くまでくると、そのマンションは赤やオレンジの炎を全体に纏っている様がよく見えた。 消防車の消火活動も懸命に行われているようだが、火の勢いはかなりある。 全焼…かな。 辺りに響く泣き声や救護の声に、あんまり野次馬はするものじゃないかなと思い直して、また自分の住むマンションへと戻ろうとしたとき、見知った顔を見かけた。 同じ学校、同じクラスの葉山翔平だ。 「葉山っ?」 私が声をかけると、葉山は茫然とした表情で眺めていたマンションから、私へとその視線を移す。 葉山の姿は寝巻であろう上下のジャージ姿に、裸足。 「は……、ははっ…、よぉ。藤崎」 渇いた笑い声を漏らし、無理に作ったような笑顔で葉山は私に挨拶をする。 見たからに……これは、もしかして……。 その後に続いた葉山の言葉は想像通りだった。 「オレのマンション燃えちまった…」 そして私は、顔見知りの、こんなところで出会ってしまった葉山を保護することとなった。 いや、だって、放っておけないでしょ?普通。 この寒いのにコートもなく、裸足なんて。ねぇ?
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