873人が本棚に入れています
本棚に追加
好きとか…、嫌いとか…、心変わりとか…。
もうよくわかんない。
コンコンッ、コンコンッってノックを繰り返した。
ドアノブを回すと鍵がかけられていた。
鍵が開いて、葉山が顔を出した。
また部屋の中を隠すように立っている。
最初から…、葉山を保護してしまったところから、やり直したい。
私は葉山を保護しなければよかった。
葉山は何も言わず、焦ったような表情を見せていた。
「誰かきてるの?」
私はそう俯いて聞いた。
「あっ、そう、友達っ」
私は手にしていたケーキの箱を葉山の前に差し出して、顔を上げた。
「友達と食べれば?」
笑顔を見せた。
精一杯の強がりだった。
「あっ、悪い。ありがと。イチコも食うよな?お茶いれる」
葉山は私の笑顔を見て安心したのか、ケーキの箱を受け取って、キッチンへと向かう。
葉山の部屋には女の子が一人いた。
私の知らない女の子。
たぶん下級生なのだろう。
けっこうかわいい。
その子は私に向かって会釈をしてみせた。
私はそれを無視した。
その子に背中を向けて、ゆっくりと玄関を出た。
どう言えばいいのかわからない。
葉山が彼女をつくってもおかしくはないし、神崎が彼女をつくってもおかしくはない。
私は彼らに恋をしてはいないし、私も彼氏をつくらなきゃって思っていたし。
だから怒ったり悲しんだりする理由は私にはないのだけれど…。
マンションの屋上へ出た。
久しぶりにきたのじゃないだろうか?
心の中の何かが渦巻いて気持ち悪かった。
私は…、ひどく勘違いをしていたんだ。
このまま一緒にいられるなんて、あるはずがない。
私は屋上の柵を握って、その場に膝をついた。
俯いた私の足元に雫が零れて、染みをつくった。
やり直したい。あの頃に戻りたい。
私は葉山とは一緒に暮らしていないし、神崎のことも話したこともない人で…。
甘えたりしていない。
ふれたりなんてしていない。
私は一人暮らしで、私はいてもいなくても…。
なんで…、こうならなきゃ気がつかないの?私。
足元に広がる染みを見ていた。
ぽつぽつと冷たいコンクリートに染みが広がっていく。
馬鹿な私。
私は……どうして……生きているの?
最初のコメントを投稿しよう!