873人が本棚に入れています
本棚に追加
私を壊して。
二度と元に戻らないくらいに。
気がついた気持ちに、私は吐き気がする。
特別でいたかった。
ずっとずっと特別でいたかった。
必要とされていると思っていたかった。
嘘でもいいから…、私を好きでいてくれていると思っていたかった。
私だけを。
自分勝手な感情。
吐き気がする。
私なんていらない。
私は屋上の冷たいコンクリートの上に座り込み、呆けていた。
目を閉じると頭がクラクラしてくる。
馬鹿な私。
頭も冷えて、感情もなんとか落ち着いて、私は家へと帰る。
また心配させてしまいそうで。
優しい二人は、ただの友達の私でさえ、心配してしまうのだろう。
それは特別なんかじゃないし、永遠に続くものでもない。
「ただいま」
私は自分の家の玄関を入ると、そう声をかけた。
あの子の靴はなくなっていた。
葉山の靴もなかった。
神崎の靴があった。
リビングへいくと、神崎が食事を作ってくれていた。
「おかえり。藤崎。ショウヘイに会わなかった?」
「会ってないよ。神崎、今日、きれいな人と歩いていた?」
私はコートを脱ぎながら聞いてみた。
彼女?とは、なんとなく聞けなかった。
「見ていたなら声かけてくれればいいのに。藤崎みたいないい人だよ」
神崎が答えるその言葉を背中で聞いていた。
「よかったね」
私はそうできるだけ明るく背中を向けたまま言って、テレビをつけた。
「ショウヘイのこと、叱っておいたから」
「ん?何が?」
「……ここは藤崎の家だから、女連れてくるなって」
「そう。ありがとう」
私はソファーへと座り、テレビを見ながら答えていた。
「藤崎」
「ん?」
「こっち見ないの?」
「テレビ見てるから」
「泣いてる?」
聞かれると、また泣きそうになった。
私は自分の感情を抑えて神崎を振り返る。
「泣いてないよ。ほら」
私は神崎に笑顔を見せた。
「……笑顔で泣くの?」
「泣いてないってば。ほら、涙出てない。神崎、目、悪いから」
「泣けばいいのに。また泣かせようか?壊そうか?」
「泣けばいいなんてひどいな、神崎」
がんばって笑って平気なふりをしているのに。
隠した感情、表に引っ張り出そうとする。
今は、この感情を隠す壁は壊しちゃダメ。
最初のコメントを投稿しよう!