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クリスマスイブには、私の家に葉山と神崎の姿はなかった。
ツリーを飾って、ホールケーキなんて買ってきて、一人でケーキを食べてみた。
おいしいと言われるお店のケーキは、そんなにおいしいと思えなくて、ほとんど食べずに残した。
テレビの中の笑い声を聞きながら、ソファーの上で横になる。
一人が気楽だと思う。
今はまだ少し、葉山と神崎にいい人ができたことを喜べる私はいないから、二人と顔を合わせるのがつらかった。
重ねた唇も、ふれた体も意味のないもの。
私もそこに恋愛感情はなかったのだから。
それでもどこか虚しさを心に覚える。
私の家から二人がいなくなればいい。
もう…その優しさを求めて甘えてはいけないのなら。
私はただ甘えたかっただけ。
一人が淋しかっただけ。
言い訳はいくらでもできる。
ただ本音は…なんなのかはわからない。
特別でいたいってなに?
特別ってなに?
いつの間にか、私はソファーの上で一人、丸くなって眠っていた。
目を覚ますと、部屋の明かりはついていて、眩しさに目を擦りながら半身を起こす。
私の体にいつの間にかかけられていた毛布が、体の上を滑り落ちる。
あれ…?
毛布なんてかけて寝てないって思った私の耳に、
「あ、起きた」
「イチコぉ、こんなとこで寝てると風邪ひくぞ」
葉山と神崎の声が聞こえた。
幻かと思えたそれは現実で、二人はそこにいて、私が残したケーキを食べていた。
あぁ。もう…。
なんでいるかな?
いなくなればいいのに。
そう思う私の瞳から涙が零れた。
「あ。泣いた」
「なんでっ?イチコ?嫌な夢でもみた?」
葉山が私の頬の涙をその手で拭う。
心配そうに私の顔を覗き込むその目に、涙をとめなければと思えば思うほど、涙は零れた。
「いなくなれば…いいって…。ック…、思った」
私は泣きながら、正直に自分が思ったことを話す。
「…女連れ込んだこと、やっぱり怒ってた?ごめんって」
違うって私の口だけが動く。
怒るとか、そんなんじゃない。
私が今泣いてしまっているのは、……うれしいんだ。
どんなに心の中で突き放してみても、甘えてしまう。
泣いてしまう。
「泣き虫」
神崎は私の頭を撫でた。
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