男友達

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でも…そうだ。神崎、きれいな女の人と歩いていた。 クリスマスの前。 あれは…彼女だと思う。 葉山は知らない? 「ナオトなら、イチコの彼氏としてオレは認めてやるぞ」 葉山、あんたはだから、私の保護者か? 私は子供じゃないっていうのに。 私はコーヒーをいれたマグカップをおいて、ソファーからおりて、葉山へと近づく。 「なに?」 訝しげに私を見て、問いかける葉山の唇にキスをしてやろうとした。 子供扱いされているみたいだったから、私は女なんだって意識してもらおうと。 薄く開けた目の下に見た葉山は、その顔を真っ赤にして、自分の唇を奪われまいと腕でかばう。 よしっ。 私はそんな葉山を見ただけで満足して、その場に座り直して拳を握る。 「なっ、イチコっ?なにそれっ?キスのふりっ?なんでっ?そういうのずるくねっ?」 思いきり焦ってくれている葉山は、ちょっとおもしろい。 いじめ甲斐がある。 神崎に同じようなことをしたって、キスなんて普通にしてしまうだろう。 たぶん逆に私が真っ赤になるようなことをしてくる。 「葉山が私を子供扱いするから」 「してないしっ。心配しているだけだしっ」 「過保護な親に見えるよ?葉山」 私が言うと、葉山はその肩を落としてうなだれた。 かわいいと思う。 ポチってあだ名でもつけようか? こんなかわいい人、いじり甲斐のある人が、どこかに他にいれば好きになれるのにって思うんだけどな。 「……イチコ、オレのこと、ショウヘイって呼ばない?」 「翔平?」 「呼んで」 葉山が甘えたような目で私を見るから、私は頷いた。 ちょっと戸惑う。 ずっと葉山のこと、葉山って呼んでいたから。 「翔平…」 私は口の中で転がすように、その名前をもう一度口にしてみた。 葉山は…、翔平はうれしそうに笑顔を見せる。 うっ…。複雑。 なんでそんなにうれしそうなの? 私のこと、もう諦めたんでしょ? そんな顔されると弱い。 翔平は目を逸らした私をその腕に抱き寄せて…。 キス、した。 流されるままに…、Hしてしまった。 好きだよって何度も耳元で言われて、私はなんだか墓穴を掘ってしまったようだ。 好きだなんて、もう言われないって、そう思っていたのに。 キスしようとしなきゃよかった。 彼氏、またつくれなくなる。
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