満月だけが知っている

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「ちょっと苦いんだ、ビールって」  缶から少しだけ飲んで、翔平は顔をしかめた。  それは飲むというより、おそるおそる舐めたって感じだ。「これって、あんまり美味しくない」  その様子を見ながら俺は笑った。  あまりにも翔平の様子が子供ぽくって、悪戯を自慢する子どもみたいで、可愛く思えたからだ。 「なんだ、それじゃ初めてだったんだな、ビール」 「うん、そう。もっと美味しいものかと思ってた。だってコマーシャルとか、すごく美味そうに飲んでるし、ちょっと憧れてたのになあ、なんか裏切られたみたいな気がする」 「あはは……、たしかに美味そうだなあ、どのビールの宣伝もさ」  いくつかのビールのコマーシャルを思いながら、俺は一気にビールを喉に流し込んだ。「ああ、うまい」  俺は空になった缶を脇に置き、口元を手の甲で無造作に拭った。ほろ苦いビールの味が全身に広がっていくような感覚。もちろん、それは錯覚なのだろうけど、五臓六腑に染み渡る――って、こんな感覚に違いないと思う。 「わあ、すごいなあ」  翔平は目を丸くした。「ほんとに美味しそうに飲むんだ、太一ってさ」 「だって美味いんだからさ。それに嫌いじゃないよ、この苦さとか」  ひどく感心したように俺を眺めてる翔平の視線を感じただけで、なんだかくすぐったくなってしまう。俺は少し照れて、そのまま草の上に大きく手足を伸ばして寝転んだ。「でも内緒だからな。酒飲んでるなんて知られたら、問題だからさ、下手すりゃ停学だし」
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