満月だけが知っている

3/7
前へ
/7ページ
次へ
「もちろん誰にも言わないよ」  翔平は俺の顔を見ながら、ニヤリと悪戯っぽく笑った。「ぼく達だけの秘密だもの。だってぼくだって飲んでるし、もう立派な共犯だから、えっと、ぼく達は運命共同体ってやつだよ」  そう言い終えた途端、さっきから手にしたままの缶を口元に運ぶと一気にあおるように飲む。煌々と眩しいくらいに光ってる青白い満月に照らされて、白い細い喉が上下に動いているのだ見えた。その様子が妙に艶やかで、俺の目は翔平の喉元へ釘付けになってしまう。 「お、おい、無理するなってば」  俺は慌てて声をかけた。「今まで飲んだことないんだろ、酔っ払っちまうぞ」 「ふう……、大丈夫だって。でもやっぱり苦いなあ。これが美味しいかどうか、かなり微妙な気がするんだけどさ」  空になった缶を手の中で弄びながら、不満顔で翔平は呟いた。口直しのつもりなんだろう、チョコ菓子を二、三個つまんで、口に放り込む。たしかに翔平にはビールよりもチョコの方が似合うかもしれない、俺はそう思った。 「慣れてないからだ、きっと。こんな少し寒い夜じゃなくって、そうだなあ、真夏のくそ暑い日だったら最高に美味いんだ。たとえば少し身体を動かした後とか、だらだら汗流しながら、ギンギンに冷えたやつを一気に飲むと」  想像しただけで、もっと飲みたくなってくる。缶に手を伸ばしかけて、中がもう空なのを思い出し、苦笑しながら手を引っ込めた。 「そっか、じゃ飲みなおしてみようかな、夏になったら」 「ああ、そのときは一緒に飲もう」  暑い夏の光景が、一瞬で俺の頭の中に広がった。青い空に浮かぶ白い雲、燃えるような太陽、びっしり汗をかいた冷たいビール缶、そして翔平の笑顔。 「なんだか楽しみだな」  うっとりしたように翔平が呟くのが聞えた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加