満月だけが知っている

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 月の光に照らされて――、そう今は夜だ。俺たち二人は人影の絶えた公園にいた。  そこは昼間だったら子ども連れとかでけっこう賑わう場所だ。公園の半分以上を占める青々とした芝生広場の中ほどが、小高い築山になっている。その上に腰をおろすと、すごく視界が広くて気持ちいい。時々、心地いい風が吹き抜けて、そのたびに翔平のふんわりした髪が揺れていた。空気は乾いて、とても澄んでいる。空気そのものが月の青白い光に満たされてる――、そんな感じのする夜だった。  今夜は久しぶりの、確か数年ぶりの月食がある夜だ。それを新聞で知って、翔平を誘ったのだ。あと一時間たらずで月が欠け始めるはずだった。その頃には、もう少し人が来てるかもしれない。でも今は翔平と俺の二人きりだった。 「まだ時間があるな、欠け始めるまで。ごめんな、早く来すぎたみたいだ」  頭の下に腕を組み、俺は夜空を眺めた。  ここは住宅に囲まれた街中の公園だから、街灯とか街明かりで、もともと星の見える場所じゃない。それに今夜は満月だ。その光に阻まれて、星の数は片手で数えられるほどしか見えない。ポツンポツンと寂しく地味に輝いてるだけで、星座の形もおぼつかない。 「でも、いいんだ。太一と一緒に居られるんだから、それだけで満足だから」 「……」  その言葉に何て答えたらいいのか判らない。俺にできたのは、ただ星を眺めるふりを続けるだけだった。翔平も俺の横に身を横たえた。その顔は空に向けられいるから、俺と同じ空を眺めてるはずだ。 「一人だったら、すごく退屈だったかもしれないけどさ、でも」  翔平は言いながら俺のほうへ手を伸ばし、軽く俺の頬に触れた。くすぐったい冷たい指先の感触。「こんな触れ合えるくらい近くに一緒にいられるから」 「そうか、ならいいけどさ。でも俺って口下手だし、うまい冗談とか言えないし……。いつも一緒にいるとき、翔平に退屈っていうかさ、つまらない思いさせてるんじゃないかって、びくびくしてるんだ」
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