満月だけが知っている

6/7
前へ
/7ページ
次へ
「やれやれ、なんてやつだろ。あっという間に眠ってしまった……。風邪ひいちゃうぞ、これじゃ」  俺は苦笑しながら半身を起こし、上着を脱いだ。それほど重い上着じゃない、だけど眠りを妨げて、起こしてしまわないだろうか、そんなことを思いながら、そっと翔平の身体の上に掛けてやる。  気持ち良さそうで安らかな寝顔が愛しい。満月の光が翔平の顔を照らしている。とても白くて滑らかな頬、軽く閉じられたままの目、しどけなく半ば開いたままの柔らかそうな唇……。翔平を見ていると、とても自分と同い年とは思えない。  こいつは昔からそうだった。物心がつく前から、こいつは俺の身近にいたから、よく知っている。いつ頃から、こいつのことを守ってやらなくては、って思ってたんだろう。泣き虫だった、こいつ。小さくて、なんだか頼りなくて、儚げで。 「いつからなんだろう、ずっと一緒にいたい、そう思い始めたのは」  そんな独り言が口から漏れた。酔っているせいだ、俺はそう思った。翔平は眠ったままだし、周りは誰もいない。その言葉は空に消えていったはずだ。それは今まで、ずっと秘密にしていた思いだった。「俺は――、こいつのことが好きなんだ、たまらなく」  腕を伸ばせば簡単に抱きしめることができる、そんな二人の間の距離。無防備な柔らかそうな頬が目の前にあって、思わず指で触れたくなってしまう……、そんな衝動に耐えながら、息苦しささえ感じながら、俺は翔平の寝顔を眺めていた。 「やだってば……、あはは、太一ったら、もう……」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加