満月だけが知っている

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 不意に翔平の口から言葉が漏れ、俺はギョっとした。  俺の中に芽吹いた少し邪まな気持ちを見透かされたような気がしたからだ。だけど翔平の目は閉じられたままで、すぐに寝言だと気付いた。 「こいつの夢の中に俺がいるのか」  呟きながら、俺は微笑んだ。こいつの夢の中を覗けるものなら、覗いてみたい気がする。 「いつだって驚かされるばかりだな」  俺は身をかがめた。自らの唇を翔平の頬に、そっと押しあてる。  その瞬間、慄きにも似た痛みと、甘い気持ちが俺の中に広がっていった。唇を離した後も夜気に晒されていたせいだろう、少しひんやりした頬の感触が俺の唇に残ったままだ。俺は静かに身を離した。それからも半ば呆然と余韻にひたりながら、翔平の寝顔を見守り続けていた。 「こいつ、笑ってる」  翔平の寝顔が微笑んだように見えた。その笑顔に引き込まれるように、俺もつられて笑っていた。きっと楽しい幸せな夢を見ているに違いない。さっきの夢の続きだったら、きっと俺もその中にいるのだろう。でも俺は、こんな近くで翔平の寝顔を見守っていられるだけで十分に幸せだった。  満月だけが知っているんだ、俺は呟いた。俺の秘密――、はじめてのキスのこと。
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