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†彼のこと†
すっかり冷え込む季節になって、街の至るところでクリスマスツリーを見かけるようになった。
街を歩く人は皆寒そうだが、どこか温かい笑顔が見られる。
子供づれの家族だとか、腕を組んだ若い恋人たちだとか。
キラキラ光るツリーのネオンに、みんな心を踊らせているようだった。
でも、彼は冬のイベントなんて興味がなかった。
気になってしかたないのは、ボロボロになった靴の底に、あと数日もすると穴が開くのではないかということ。
願わくば、来年までは持ちこたえてほしい。
その願いも、たぶん叶いそうにないが。
彼の傍には、クリスマスを一緒に祝う人などいない。
ましてや、キリストの生誕など祝っている場合ではないのだ。
この寒い冬の1日を無事に生きて終えることができた。
そして、明日もなんとか生きていかなければならない。
なにしろ彼にはお金がなかった。
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