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しかし、だ。
少女は目の前に現れた盾を気にも留めない。
臆することなくそのまま腕を振り降ろし、俺の氷の盾を打ち抜く――
「――ッ!?」
また、だ。
衝撃がない。振動がない。音がない。
彼女の腕は勢いを殺さぬまま、俺の盾へと直撃したはずなのに、まるでそよ風が触れたかのよう、何も起こらない、感じない。
「もーいっちょう、イッチョウ」
「――ッ」
続いて二発目の攻撃の構え。
が、しかし、今度は不意をつかれたわけではない。
かわした後、返り討ちにしてやろう。
氷の盾を投げ捨て、俺は少女が振り降ろした二度目の拳を危なげなく回避してみせる。
少女の拳は一番最初の時と同様、地面へと。
しかし、まただ。
今度も振動がない。何も起こらない。
――それがどうした?
相手の能力が何なのかなど、考えている場合ではない。
今こそが好機――!
「サセナイよ」
「ち――!」
だが。
残る片割れ、あいつの能力は空間飛翔を可能としている。
あいつ自身は俺からかなり離れていると言うのに、奴の身体の一部――、その右腕が俺の邪魔をする!
くそったれめ――、ちゃんとした連携が取れていやがる!
「チャンス、ちゃんす」
好機は転じて、危機へ。
少女の右腕が三度、振り上がる。
ヤバイ。かわし――
「ニガサナイ」
宙に浮かぶ少年の右手が、俺の首元を掴んで――
「【三装填同時解放(トリプル・バースト)】」
回避は出来ず。
少女の右拳が。
俺のボディを。
思い切りぶち抜いた。
「――ッ」
――突き抜ける。
衝撃が腹から、脳天へ、手足へ、全てへ。
突き抜け、破裂し、爆発した。
「が――……」
俺の身体が再び宙へと舞う。
真っ直ぐに、ストレートに、真後ろへ、吹き飛んでいく。
俺の後ろに立っていた少年の『本体』すら飛び越え、そのまま更に数メートル以上――あるいは数十メートルか、最早判断がつかない――吹き飛び、ゴム毬のように地面を二度三度跳ねて制止した。
「――あ、が、ああ――あ、あ、く……!」
言葉が紡げない。紡ぐ余裕がない。
息が出来ない。苦しい、痛い、イタイ。
尋常じゃない。
尋常じゃない、パワーだった。
先程喰らったパンチよりも、更に強い。
「が――……く……」
駄目だ。
駄目だ、駄目だ、駄目だ。
今の一撃は。
――致命的、すぎる。
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