第九章:END OF GRIEF

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――頬に感じる、冷たく硬い床の感触。 ぼやけた視界の向こうには、人間の足が二本写っている。 「だから『矛盾する』と言っただろう、主人公?」 声は頭上から。 「――……」 何か言い返してやろうかと思ったが、声が出ない。 肋骨にはヒビ、肩の関節は抜けている。 殴られすぎた顔面は、真っ赤に腫れ上がり、鏡を見なくとも酷い有様であろう事が容易に想像がつく。 ――完膚なきまでに、やられた。 威勢良く攻めていった結果がこれだ。 アストロ隊長の仇をうとうと、正面きって挑んだ結果が、この有様。 全く、敵わなかった。 それ以前に、勝負にすらなっていない。 俺は奴に、触れることすら許されなかった。 「現実は『矛盾する』。貴様の理想と、こうも無惨に矛盾するのだ」 「……」 「いい加減わかっただろう、主人公。貴様がどんなに願おうと、今のお前の立場では、俺を倒すことは出来ない」 立場って、何だよ。 俺は目の前で大切な人を傷つけられて、何も出来ずに自分自身すらもズタボロにされる――、そう言う立場にいるとでも言うつもりか? ふざけた、ことを。 「俺がここで、お前を殺すことは可能だ」 ミシ、と。俺の頭を奴の片足が踏み潰した。 ぐっと力を込められる。 メキメキと、頭蓋骨が悲鳴を上げる。 「主がそれを望んでいなくても、俺にはそれを成し遂げられるだけの力がある。主が定められるのは役割と、能力だけだ。俺たちの意志までには介在できない。だからこそ――」 更に力が込められる奴の足。 痛みで、目が眩みそうになった。 「全てが全て、主の理想どおりにいくわけではない。そう――、俺たちはここでお前を殺せば、あるいは、そこで終りに出来るのかもしれない。この、悪夢を」 悪夢、だと? 「矛盾に満ちた、この虚構の理想を」 理想。 誰の? この、今目の前で起こっているこの現実が、誰の理想だって言うんだ? 「だから俺は殺すことにする。今ここで、ミスティック・レイジ。貴様の存在を。この俺が刈り取ってやる」
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