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途中、すれ違う同胞達に挨拶を交わしながら俺は自室の扉の前へとたどり着く。
「おっと」
いけないいけない。
普段の癖で、ついノックもなしにそのまま入ろうとしてしまった。
確かに自分の部屋ではあるが、今は中に他人が、ましてや異性のそれがいるのだ。
ウィズアウトノックなんて言語道断である。
「入るぞー」
てなわけで俺は声を投げ掛けつつ、コンコンと二度扉を叩いてから開閉のスイッチを押した。
指紋認証式、オートロックのスライド式ドア。
主人の指を認識した機械が、鉄色の扉をガションと横に滑らせる。
「……おかえり、なさい」
少女は部屋の右奥にあるベッドに腰掛けていた。
キッチン、風呂、寝室、リビング。その四つで構成された無駄のないS・A・D一人部屋。
入ってすぐの左右の扉がそれぞれキッチンと風呂に繋がっており、正面の空間、即ち今少女と俺がいる空間が寝室となっている。
因みにリビングは寝室の左だ。
「ん、ただいま。どうだ、調子は?」
「……平気、です」
「よし、ならいいんだ」
とりあえず、あの時に怪我や変な症状の類いは拾っていない様子。
ひとまず、安堵。
何せ未だ正体不明の怪物だ。
それらが大量発生していた空間の真っ只中にいた彼女。
何が起こったっておかしくはない。
「……」
見れば、可愛らしい、まだ十代半ばと言った少女ではないか。
普通ならばお洒落をして、美味しいものを食べて、血色のいい肌をしているものではないか。
肩まである蒼い髪はボサボサ。
着ている服は引っ張れば直ぐに切れてしまいそうなほどに弱っている。
そうしてその瞳。
力が、こもっていない。
十代の少女が放つ、輝かしい瞳の光は、暗く閉ざされていた。
同じく十代の人間として(とは言え、俺は後半であるが)、彼女がまともな状態でないのは考えるまでもなくわかった。
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