第一章:WORLD OF LONELY GIRL

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「さて」 まずはちゃんとした自己紹介をしよう。 あの時はバタバタしていて、自分の名も名乗っていなければ、彼女の名前も聞いていない。 「とりあえず、自己紹介をするよ。俺の名前はミスティック・レイジ。親しい奴からはミスと呼ばれている。君の名前は?」 「……ミス」 彼女は自分の名は名乗らずに、小さく俺の愛称を呟いた。 まるで、何かを確認するように、ポツリと。 「ああ、ミスでいいよ。で、君の名前は?」 「……私、名前……名前……」 視線は下に向き、顔を俯かせ、彼女は無表情でただ『名前』と繰り返した。 それは、記憶を探っているかのようで。 『見つかるはずがないと判っている探し物』を探しているようで。 「まさか、無いって言うのか?」 そんなはずは、ないだろう。 誰もが生まれたその瞬間に名前を授かる。 そいつを生んだ人間から名前を授かる。 彼女は今、ここに存在している。 それはつまり、生まれたと言うことだ。 生まれたと言うことは、名前を授かると言うことだ。 「名前、ない、です」 名前がない。 それはつまり。 生まれなかったと、言うこと。 生まれたことを、『認識されなかった』と言うこと。 彼女は。 『存在していない』と、言うこと。 「……」 かける言葉は、見つからなかった。 彼女が今生きている境遇が(あるいは、生きていると定義出来ないのかもしれないが)、あまりに俺の想像を絶する、不幸と言う安易な言葉ではくくれない、酷い、現実だったから。 「名前、必要、なかったから。だから、ない」 名前は必要ない。 だって、存在していないのだから。 存在していないものに、名詞はいらない。 呼ぶ必要も、区別する必要も、ないから。 「じゃあ」 俺は、思い上がってしまった。 「俺がお前に」 ほんの偶然で出会っただけに過ぎない自分が、彼女を救えるなどと。 「名前をつけるよ」 他人に名前をつけると言うことがどういうことか、他人に『生』を与えることにどれだけの責任が生まれるか。 そんなことを、全く、深く考えずに。 「どう、して?」 「必要だからさ」 他人を『認識』することが、どれだけの物を生み出すのか考えずに。 「パルケ」 「パルケ……」 「そう、俺は今から君をパルケと呼ぶ。そう名乗り、そう生きろ」 俺は彼女を、『認識』したのでした。
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