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しかし、そうは言ったものの、彼に直談判する機会なんて俺如きに与えられるのか?
たかが一般兵に過ぎない俺に、Mr.Aと接触するチャンスは存在するのか?
「だが、まずはやってみなければ始まらない」
何事も、やる前から放棄しては当然成し遂げられない。
当たり前のことだが、当たり前ゆえに大切なこと。
ならば行くしかないだろう。
この身一つ、『絶対不可侵の果て』へ向かうしかない。
「なあ、パルケ」
「はい」
俺は今さっきその存在が認識されたばかりの彼女に、重々しい口調で声をかける。
「君は、この先どうしたい?自分の居た場所に帰るか?それとも、ここに留まりたいか?」
勿論、仮に彼女が戻りたいと言うのなら、それは安全が完全に保障された後、その意志を尊重して元の場所へ戻すつもりだ。
俺は揺らぐことなく真っ直ぐこちらを見据えてくる彼女の瞳を、同じく真っ直ぐに見つめ返しながら、しばし彼女の回答を待つ。
そうして数秒後、彼女がその口を開いた。
「ここは、私にとって、真っ白い場所です」
「……」
「何もわからない、初めてのことばかりで、新しいものばかりで、全然、落ち着かない、場所です」
「……そうか」
「でも、ここには、私がいます」
自分がいる。
「あの場所には、誰も居ません。私も、いません」
自分がいない。
「私は、あの場所には、戻りたく、ない、です」
「……わかった」
その答えは、初めから予想できていたものだった。
彼女が元居た場所、そこに戻りたいなんて意志が無いだろうことは、容易に想像がついていた。
そんな世界にいるくらいなら、ここに居た方がいい。
誰にも認識されない、誰とも接触しない、孤独であり、孤独でしかない世界よりも。
他人に認識され、他人と接触し、誰かと笑い合える世界のがいいはずだ。
そう。少なくともここには、俺がいるのだから。
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