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ならばこそ。
覚悟は決まっている。故に、やることも決まっている。
「よし、わかった。それじゃあ、君はもうちょっとここで待っていてくれないか?」
「……また、どこかへ、出かけるのですか?」
「ん、まあ、野暮用でな」
軽い口調でそう言い放ち、俺はくるりと身を翻して部屋の取っ手に手をかける。
あくまで、『ほんの少しどこかにお出かけする』程度の雰囲気を漂わせて、俺は部屋を出た。
「――……」
バタンと、空虚な音を立てて扉が閉まる。
同時に。
「……」
一気に、冷や汗が、額から、あふれ出した。
ガクガクと、足が震える。
俺は、今から、何をしに行こうと言うのだろう?
たかが一般市民を、S・A・Dの施設内に住まわす?
本来なら、一時の保護の為であれ中に入れるのは躊躇われると言うのに?
S・A・Dと言う組織の特異性、それを理解していれば理解しているほど、今自分がやろうとしていることが、いかにふざけたことなのか、嫌と言うほど認識させられる。
Mr.Aに、直談判。
S・A・D全体を取り仕切るのは彼だ。
部外者の闖入に対し判断を下すには、どうしたってまずは彼を通さねばならない。
いや……、それならばまずは隊長殿に相談してから、彼の口から話してもらうか?
違う、ダメだ。これは俺の個人的な決定だ。正規のルートを通っても、間違いなく却下されるだろうとわかっている上での、俺の決定だ。
だからこそ、俺自身が直接Mr.Aに訴えかけなければならないんだ。
それがいかに、とんでもないことか知りながらも、俺はそうしなければ、いけないんだ。
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