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「行こう」
自分自身に言い聞かせるように、俺は力強くそう呟いて一歩踏み出す。
頭の中を真っ白にして、悪い想像は極力しないように、ただ真っ直ぐに『絶対不可侵の果て』へ向かって歩みを続けた。
「おや、『黒の制裁者(ブラック・パニッシャー)』。こんなエリアにまで何のようです?」
道中、白い研究服を着衣した女性に疑惑の目を向けられる。
Mr.Aのいる『絶対不可侵の果て』は、施設の北側エリアの最北端。
そうして、北側エリアは基本的に研究施設が集中したスペースとなっており、『黒の制裁者』の面々は、その手伝いに駆り出されでもしない限り、基本的にはこのエリアに足を踏み入れることは無い。
もしその他の用事があるとすれば――、それこそ『Mr.Aへの接触』、それくらいしかないだろう。
だがしかし、たかが一般兵の俺がそんな用事を持っていると思われるはずが無い。
故に、疑われる。疑問に思われる。
なあ、何故お前はこんなところに来たのだ、と。
「ちょっと個人的な用事だ。ま、気にしないでくれ」
「そうですか。別に構いませんが、どうせ暇なら何か手伝っていってください。此方はほら、あなた方が殲滅してきた『謎の悪魔』とやらの研究で大忙しなんですから」
「気が向いたらな」
言って、俺はニヤリと笑って彼女の脇を通り過ぎて行く。
気なんて、向くはずもないのだけれど。
彼女もそれがわかっているのか、同じように笑みを溢しただけでそれ以上何も言っては来なかった。
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