第一章:WORLD OF LONELY GIRL

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魔力を込めた右手のひらで、俺はその扉の表面に触れる。 我が魔法は、既存の物体に影響を与える強化系。 触れた対象から温度を奪い去る、氷結、冷血の魔術。 俺は念じた。 この扉の持つ熱を全て奪い去ろうと。 そうして、カチカチの氷と化した扉を前にすることで、俺は自身を納得させようとしたのだ。 何のことはない。目の前にある扉は、極普通の、ただの扉なのだと―― 「馬鹿、な……」 しかし、それはかなわなかった。 扉は依然としてそこにある。 『何の異変もないまま』、そこにある。 触れた扉の表面からは何も感じない。 普通。普通の扉。 温度なんて、全く下がっていない、ただの扉。 「信じられない……」 これが、これこそが。 何人たりとも侵せない、『絶対不可侵』。 こんなものが、有り得るのか? こんな、常識はずれの、存在が。 「何をしている」 「――!」 突如、背後から声をかけられた。 ビクリと身体が震える。 普段なら声をかけられた程度で驚く俺ではないのに、今の俺は奇っ怪な程に不意をつかれていた。 「ミス。こんなところへ何のようだ」 振り返った視線の先。 見覚えのある黒いシルクハット。 「隊長どの……」 そこに立っていたのは我らが隊長、アストロ・ジーク・アハトだった。 「まさかとは思うが、ミス。Mr.Aに用があるとでも?」 「……」 沈黙は、肯定。 元より、こんなところまで足を運ぶ人物に、それ以外の用事がある道理はない。 「無駄だぞ、ミス。ここは『絶対不可侵の果て』。彼に許可されている人物以外は、ノックも、声をかけることもできない」 「そんな、馬鹿なことが……」 「それがMr.Aの魔法だからだ。音が『振動』を必要とする以上、『固定』されているこの扉の向こうへ届かせることはできない」 「……」 わからない。 理屈はよくわからないが――、少なくとも。 俺が門前払いを受けていると言うことだけは、ようくわかった。 「私はMr.Aに用がある。ミス、お前は自室へ戻るなりなんなりするがいい。わかっているだろう。ここはお前が来ていい場所ではない」 そんなことは百も承知。 けれど。 「俺も、Mr.Aに用があるんです」 この前提は、揺るがない。 俺は覚悟を決めて、ここへやって来たんだ。 そう簡単に、引き下がってなるものか。
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