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「全く……」
やれやれと言った様子で、隊長どのはその白い顎髭を、左手で二度撫でた。
そうして呆れた顔をして俺の方に向き直ると、幼子に諭すように口を開く。
「いいか、ミス。Mr.Aはこの組織のトップであり、ありとあらゆる方面の仕事を取りまとめている。そんな彼が一々下っぱの意見に耳を貸せるような状況を作れば、当然彼はてんてこ舞いだ。だからこそ、彼に直接謁見を出来る人間は限られている。話があるなら私を通せ。それが筋だろう」
ああ、隊長どのの言ったことは何もかもが正論だ。
俺がしていること、しようとしていること、それは何もかもが間違っている。
恐らく、組織のお偉い方100人に話を通せば、100人とも首を横に振るだろう。
彼らは彼らの一存で決める権限を持たないから。
だから例外は認めない。
枠から外れたものは、全て却下。
例外を認めることが出来るのは、枠から外れたものを許可出来るのは。
その枠を作っている人間のみ。
つまり、Mr.Aただ一人。
だからこそ、俺は彼に会わなければならない。
彼に訴えかけ、その心を揺さぶらなければならない。
枠から外れたものを許可してもらうには、その枠を修正する力を持つものに頼むしかないのだから。
「……引く気はなさそうだな」
俺はただ無言を持って、隊長どのに力強い視線を向ける。
「……取り合ってみよう。却下されても、知らないぞ」
そうして遂に俺の頑固さに折れたのか、諦めた口調で彼はそう漏らした。
「有り難うございます」
視線の強さは消さないまま、俺は隊長どのに礼を述べる。
「ふん。聞くだけだぞ。謁見を却下されたら、素直に諦めるんだな」
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