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隊長どのはそう、やや機嫌が悪そうに呟くと、改めて『絶対不可侵の果て』の方へと向き直り、その口を開いた。
「Mr.A。C番隊隊長、アストロが参りました」
最初に俺がしたのと同様、彼は扉に向かって声を投げかける。
が、その後の展開は、やはり俺がした時と全く違っていて。
「入っていいよ」
若い青年を思わせる、透き通った声。
それと同時に、いかような手段を持ってもうんともすんとも言わなかったあの扉が、ゆっくりと、独りでに、開きだした。
「Mr.A。勝手ながら、私ついでにもう一人、私の隊の隊員で貴方と話がしたいという輩がおります。いかがいたしましょう?」
開かれた扉の向こう。
アストロの背後にいた俺の目にもハッキリ移っている。
大理石のテーブルに乗せられた洋風なティーカップ。
そうして真っ赤な、高級そうな赤いソファーに腰をかけているプラチナ髪の青年。
殺風景が持ち味のS・A・D施設内の部屋とは思えないほど、きらびやかなその部屋の中心にいる彼。
彼こそが、Mr.A。
静かに、ふつふつと、滲み出るように。
俺の身体を犯していく、奇妙な、感覚。
圧倒されているのか。
ただあそこに腰をかけているだけの彼に、今俺は圧倒されているのか。
奇妙。そう、奇妙としか言えないのだ。この感覚は。
ハッキリとは言葉に出来ない。
だけれども、わかる。
彼の存在が俺の視界に映し出された時。
明らかに、普段とは違う『それ』が、俺の身体を蝕んだと言うことは。
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