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孤独な少女。
友達のいない少女。
両親のいない少女。
誰もいない少女。
少女は存在していた。
このセカイに確かに、少女は存在していたのだ。
だけれども、少女以外、誰も彼女を認識しなかった。
誰も彼女を知らなかった。
誰も彼女の傍にいなかった。
では、彼女が。
彼女自身が彼女のことを忘却したら。
彼女の存在は、誰が認識するのだろう?
少女はセカイを憎んだ。
自分を認識しないセカイを憎んだ。
自分の存在を希薄にするセカイを憎んだ。
自分の居場所がないセカイを、憎んだのだ。
同時に、嘆いた。
同時に、求めた。
誰かに認められること。
誰かに必要とされること。
彼女は自分以外の誰かに、認められたかった。
愛されたかった。
そう。彼女は間違いなく不幸だった。
幼き日、多額の借金を残して死んだ両親。
思い出、なし。
忘却の彼方に、全て消えた。
故に彼女の主観からではなく、客観的見解を述べさせてもらうのであれば。
彼女は認識されなかった。
要らない子だったのだ。
産みたくもないのに、両親の過ちで産んでしまった、そんな不幸な少女。
彼女は借金取りに追われた。
彼女はまだ生きていたかった。
だから生きるためには何だってした。
食べ物を奪った。
着るものを奪った。
森の中に段ボールを組み立て、宿を作った。
そんな生活を、何年も続けてきた。
川で身体を洗い、錆びかけたハサミで髪を切り、食べ物は奪い、あるいは森の中で収穫し。
いつしか、彼女は忘れ去られた。
借金取りも、いつの間にか追ってこなくなった。
そうして、彼女は16歳の誕生日を迎える。
だけれど、誰もそんなことは知らなかった。
その日、彼女は再び街で食べ物を奪った。
食べ物らしきものを、奪った。
その時彼女は、別段お腹は空かせていなかったのだ。
故に、甘いもの。
キャンディのような、丸い、七色の玉を、奪った。
不思議な魅力を持つ、その玉。
彼女は森の中、それを飲み込んだ。
――そうして。
物語は、紡がれ始めた。
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