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七色の玉。
人を魅了する、不思議な輝きを放つ、その玉。
それはマナ・ボールと呼ばれる存在だったが、少女はそれを知らない。
それは飲み込み、体内に入れることで、そのものに驚異的な肉体、身体能力、そうして『魔力』と呼ばれる神秘の力を与える存在だったが、少女はそれを知らない。
ただその後も、いつもと代わらぬ、孤独で寂しい生活を送っていた。
――時は過ぎ、冬。
クリスマス。世間の皆は、家族や恋人と共に過ごす、幸せな日。
少女はその日も孤独だった。
いつもと変わらず、孤独であり続けた。
街を見下ろす。
夜、雪が降っている。
綺麗な夜景。クリスマス一色の街の風景。
降り落ちる雪に、歓喜する人々。
「……」
身体が、寒さに震えた。
降り落ちる雪は、彼女の体温を奪った。
「……」
壊れてしまえば、いいのに。
私が存在しない幸せなセカイなんて、無くなってしまえばいいのに。
ぽたり。
雪。
違う、雪ではない。
「……」
頬を、涙が伝っていた。
もう、涙など枯れ果てたはずなのに、性懲りもなく、それは少女の瞳から溢れ出た。
ドクン。
心臓が、震える。
そうして、次の瞬間。
「――……!」
悪魔が、天から、降り落ちた。
黒く、黒く、黒い身体。
赤く、赤く、赤い両の目。
月を断つ、漆黒の翼。
鋭い牙、そして爪。
それはまさしく、彼女が想像した通りの姿をした悪魔そのもので。
そんなものが何十と、街に向かって降り落ちていった。
「――ッ」
思わず息を飲む。
先程まで喜びに満ちていたはずの街が、一瞬にして恐怖のどん底へ叩き落とされていく。
少女はただただ呆然と、その様子を見ていることしかできない。
ばさり。
羽の音。
少女は背後から突然聞こえたその音に、ハッとして振り返る。
「……」
悪魔が、一匹。
彼女の直ぐ傍に。
ぐえ、と気持ちの悪い音を立てながら、悪魔はゆっくりとその口を開き、牙を剥く。
死。
少女の脳裏をよぎる、死の予感。
ああ、私は。
ついに、誰にも認識されないまま。
存在しなかったまま。
真実、存在しなくなるのか――
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