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感覚を鋭く、意識を集中させ、俺は敵の所在を探る。
理想的なのは、味方と敵が交戦中であるところを発見できることだ。
集団での戦いにおいて、単体での行動は隠密行動でもない限り愚の骨頂。
正面から1対1で挑みかかるより、交戦中の敵を後ろからさっくり奇襲したほうが何倍も効率がいいのだ。
勿論、奇襲に失敗したとしても、2体1であれば以前こちらが有利となる。
だから俺は魔力を探る。
暴力的な、周囲に撒き散らしているかのような魔力を探る。
それこそが、戦闘中の魔力の動きそれそのものだからだ。
そしてそれこそが、最も発見しやすい魔力の動きと言える。
動かない、使用されていない魔力よりは、何十倍も察しやすい。
――見つけた。
間もなく、俺はそれを発見した。
この直ぐ近くで、今まさに交戦が始まった。
激しい魔力を感じる。東――、いや北東の方向か。
「――よし」
改めて気を引き締め直す。
そして、俺が北東へと駆け出そうとしたその瞬間――
「ミツケタね」
「ウン、ミツケタ。ミツケタ」
「――ッ!」
緩やかな、狂気が。
「本命ダ」
「ウン。本命だ。本命ダ」
俺の、直ぐ、背後から――!
「な――ッ」
すかさず振り向いて、その狂気の出所を確認しようと俺は周囲を見渡す。
気が狂いそうなほど、暴力的で、快楽的で、ドロリとした魔力の気配だった。
それも一つじゃない。二つ。
敵は二体だ。
「キヅイタネ。僕達に」
「キヅイタ。気づいタ」
「――上か!」
いつの間に移動したのか。
先ほどまでは間違いなく、俺の直ぐ後ろにいたはずなのに。
姿は見えなくとも、声と気配は、間違いなくそこにあったはずなのに。
顔を上げた俺の目に映ったのは、二人の少年と少女の姿だった。
そう、少年。まだ青年とは呼べぬ、幼い見目形。
11、あるいは12歳。その程度の背丈。双子なのか、見た目に差は全く無い。
ただその声の高低の違いから、男か女か判別できるのみ。
天然だろうか。少しパーマがかった灰色の髪。
そして、黒い剣士と同じ、燃えるような紅い、真紅で深紅で辛苦の瞳。
その身に纏うは、漆黒の服。
袖の長い上着に、何の模様も無い長ズボン。
――降り堕ちる『黒』。
何だよ。何なんだよ、これは。
どう見たって。俺の目に映ったこいつらはどう見たって。
――ただの、人間、じゃないか。
鎧や、兜すら身に纏っていない。
ただの、子供たち、じゃないか――!
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