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一度目は悪魔の姿をしていた。知性も何も無く、言葉だって話せなかった。
二度目は剣士の姿をしていた。知性を持ち始め、不安定ながらも言葉を話せた。
そして三度目――、遂に奴らは人の姿になった。知性を持ち、言葉を話す、『完全なる人間の模倣品』として今目の前に存在している。
「――ッ」
この変化は何だ?この成長は何だ?
以前の黒い剣士は言っていた。
知性を得ることで、言葉を得ることで、そして彼自身は言っていなかったが、恐らく俺たちの姿に近づいていくことで。
和解の可能性が、見出され始めていると言うことを。
この成長は、主が迷っている証拠なのだと言うことを。
和解なんて、出来るのか?
知性を得たところで、言葉を話せたところで、俺たちはこいつらと分かり合えるのか?
少なくとも――、以前の黒い剣士とは全く分かり合える気がしなかったのに?
「殺シチャオウ」
「ウン、殺しちゃオウ、コロシチャオウ」
「それこそが、僕らの生キル道」
「それこそが、僕らのイキル意味」
「――ッ!」
しまった。戦いの最中に考え事をするだなんて、愚かしいにもほどがある。
頭上の双子。此方に向かって、重力に従うまま降り落ちて来ている。さあ、どう来る?どう仕掛けてくる?
俺は氷剣を構え、迎撃の体勢を取った。
「扉がヒラク。――Different dimension flight」
双子の片割れ――声の低さから、男のほうだ――が、何か、呪文のようなものを呟く。
一体何をする気か――、と。俺が更に警戒を強めたその次の瞬間。
「――!?」
ドスンと、強い衝撃。
胃の中のものが全て逆流しそうな、強烈なボディブロー。
「ば――、かな」
双子の姿は、まだ上空にある。
ならば、これは――!?
俺の身体はその一撃によって、無様にも後方へと弾き飛ばされる。
すかさず体勢を立て直し、俺は『今俺を殴ったものの正体』を見極めんと、視線を巡らせた。
「――なに……!」
そこにあったのは――、拳だ。
俺がさっきまで立っていた場所。そこにあったのは、拳、そして腕。
『拳と腕しかなかった』。
『拳と腕だけがその場に浮かんでいた』。
――まさか。
地面にほぼ同時に降り立つ双子。
俺はその片割れの右腕に注目する。
――やはり、無い。
そこだけ、ぽっかりと、消しゴムで消されたかのように、無くなっている。
――これは、転移系魔法。
「ユダンしちゃ駄目だよ」
「駄目ダヨ、ダメだヨ」
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