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緊急事態。
エマージェンシーを告げる警報だ。
しかし、このフロアのものではない。
何故なら、このフロアの警報のスイッチは私の直ぐ近く――、10メートルほど横の壁にある。
私が押していない以上、このフロアの警報がなることは有り得ない。
『北フロア、A-10で緊急事態。北フロア、A-10で緊急事態。北フロア――』
遅れて流れる、警報の発生源を告げる機械音声。
……私のいるこのフロアは東フロア、B-6。
発信源は大分遠い――
「――ッ!」
再び、警報。
現在響き渡っている警報に重なるようにして、二つ目の警報の音が混ざる。
『南フロア、D-2で緊急事態――』
いや、二つだけではない。
『東フロア、A-11で緊急事態――』
『西フロア、C-3で緊急事態――』
『南フロア、B-10で緊急事態――』
次々と別の場所で鳴らされた警報が、赤い光と共に響き渡る。
最早、どこで緊急事態が発生しているのか把握しきれない。
馬鹿な。こんな一斉に警報が鳴らされるなんて――
「…………まさか」
そこまで考えて、私は一つだけ、否、一つしか有り得ない、確信と言う名の仮定が頭に浮かんだ。
「お前だけじゃ……ないのか」
私の目の前に立つ、茶髪の青年を見据え、私は低い声でそう呟く。
「当たり前さ。僕は君を殺しに来たんじゃない。僕達は『全てを殺しに来た』んだから」
「――……」
やはり、そうなのか。
こいつ一人ではない。
天からの災厄、降り堕ちる悪魔。こいつらは今この瞬間、一斉にこのS・A・Dの施設内に大量発生したと言うことなのか。
……となれば、最早アルフレッドに報告することに意味はない。
あいつがこの事態に気づいていないはずがないし、私以外の誰かが報告していないとも思えない。
いずれにしろ、報告したところでやる事は変わらないのだ。
「……いいだろう」
そう、敵が目の前に現れた以上。
「殺せるものなら殺してみるがいい」
――迎え撃つ。
選択肢は、ただその一つしか有り得ない。
「殺すよ」
「……」
「だって僕は、その為に来たんだからね」
「――ほざけ」
ダンと。
強く地面を蹴り、私はカマイタチを構え、奴に向かって突進した。
久しく忘れていた、この感覚。
――数年ぶりの、私の本気の戦いが今始まった。
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