第七章:INTERNAL DESTRUCTION

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緊急事態。 エマージェンシーを告げる警報だ。 しかし、このフロアのものではない。 何故なら、このフロアの警報のスイッチは私の直ぐ近く――、10メートルほど横の壁にある。 私が押していない以上、このフロアの警報がなることは有り得ない。 『北フロア、A-10で緊急事態。北フロア、A-10で緊急事態。北フロア――』 遅れて流れる、警報の発生源を告げる機械音声。 ……私のいるこのフロアは東フロア、B-6。 発信源は大分遠い―― 「――ッ!」 再び、警報。 現在響き渡っている警報に重なるようにして、二つ目の警報の音が混ざる。 『南フロア、D-2で緊急事態――』 いや、二つだけではない。 『東フロア、A-11で緊急事態――』 『西フロア、C-3で緊急事態――』 『南フロア、B-10で緊急事態――』 次々と別の場所で鳴らされた警報が、赤い光と共に響き渡る。 最早、どこで緊急事態が発生しているのか把握しきれない。 馬鹿な。こんな一斉に警報が鳴らされるなんて―― 「…………まさか」 そこまで考えて、私は一つだけ、否、一つしか有り得ない、確信と言う名の仮定が頭に浮かんだ。 「お前だけじゃ……ないのか」 私の目の前に立つ、茶髪の青年を見据え、私は低い声でそう呟く。 「当たり前さ。僕は君を殺しに来たんじゃない。僕達は『全てを殺しに来た』んだから」 「――……」 やはり、そうなのか。 こいつ一人ではない。 天からの災厄、降り堕ちる悪魔。こいつらは今この瞬間、一斉にこのS・A・Dの施設内に大量発生したと言うことなのか。 ……となれば、最早アルフレッドに報告することに意味はない。 あいつがこの事態に気づいていないはずがないし、私以外の誰かが報告していないとも思えない。 いずれにしろ、報告したところでやる事は変わらないのだ。 「……いいだろう」 そう、敵が目の前に現れた以上。 「殺せるものなら殺してみるがいい」 ――迎え撃つ。 選択肢は、ただその一つしか有り得ない。 「殺すよ」 「……」 「だって僕は、その為に来たんだからね」 「――ほざけ」 ダンと。 強く地面を蹴り、私はカマイタチを構え、奴に向かって突進した。 久しく忘れていた、この感覚。 ――数年ぶりの、私の本気の戦いが今始まった。
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