曹操孟徳

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梨の木が曹操は好きだった。 単に果実を実らせるという事だけでなく思いの外太く、そして力強い。 自分が横になっている寝台も梨の木で造らせたものだ。 ほんのりと甘い香りがする気がするのだ。 その梨の木の寝台に横たわり一人考え事をするのが曹操は好きだった。 ここ最近頭痛がひどい。 いつもの様にこめかみから後頭部にかけての痛みではなく頭全体が軋むように痛む。 薬すら吐き出す始末だ。 どこかいつもと違う。 しかし頭痛があるとひどく冷静に物事を考える事が出来る。 漢中で劉備に敗れてから一年が過ぎていた。 よく生きて帰れた、と思う。 首と胴が繋がっているのが不思議なくらいだ。 曹操自信乱戦に巻き込まれ鼻と歯を数本折られたのだ。 今では完治しているが天気が愚図つくと鼻が痛い気もする。 思い返せばはらわたが煮えくり返るが、あれ程気持ちがたかぶった戦も久しぶりだった。 無我夢中だった。 自ら剣を取り敵兵を斬ったのは何年ぶりか。 生き残るために自分に群がってくる敵を何十と斬った。 自分が斬られるかもしれないとは思わなかった。 (俺は負けた戦をいつまでも考え続ける男ではなかったはずだ) 悔しいとは思う。 しかし敗戦から立ち上がろう、という気力が沸き上がってこない自分の気持ちの変化に、曹操は気づかなかった。
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