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火を、見つめていた。
劉備は病になってから火を見るのを好むようになった。
夜になったら庭で松明を燃やす様に臣下には言ってある。
寝台から首を横に向けるだけで火が見える様にした。
体調がいい日には寝台に座ってぼんやりと眺める。
火を見つめていると酷く落ち着く自分に劉備は驚いていた。
つい先年その火によって陸遜に敗れたのだ。
本当なら火を見るのも嫌なはずだった。
一年が過ぎた。
劉備は全てを諦めていた。
立ち上がろうとする気力すら沸き上がってこない。
そんな時に火が目に映った。
力強く燃えている。
その癖少しでも風が吹こうものならすぐ消えそうになる。
その有り様を己の人生になぞらえたりして自嘲気味に笑うのだ。
(馬鹿な事をしている)
そう思うがその気持ちを否定する気に劉備はならなかった。
「俺の火は、もうすぐ消えるのだ」
火を見つめながら劉備は呟いた。
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