夜が明ける時

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「……岩倉佳恵と申します。この度は私の主人が大変申し訳ないことを」 「帰ってください」 「紗菜!この人は、今警察にいる岩倉さんに代わって…」 「帰ってください。岩倉さんから直接何があったのか全て聞くまでは… あなたとは、話すことはありません」 自分でもびっくりするくらい、冷たく鋭い声。 わたしは、岩倉さんの奥さんに憤りや憎しみを感じていた。 そんなものは無意味だと、わかっているのに。 憎まずにはいられない。 お母さんを捨てた岩倉さんを――。 お母さんを殺した岩倉さんを――。 何も知らずに生きてきた岩倉さんの奥さんを――。 お義父さんにどれほど咎められても、わたしは譲らなかった。 怒鳴り散らしたいのを我慢するのに必死で、岩倉さんの奥さんを睨み付けた。 岩倉さんの奥さんはただ頭を深く下げて、踵を返す。 玄関の扉が開いて閉まる音が、わたしに聞こえてきた。
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