序章

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 僕の住んでいる所は山奥で、中学校まで6㎞歩かなければならなかった。ここに住んでいる子供は僕と彼女、久留米秋穂(くるめ あきほ) しかいなく、また同い年だったことも相まって、双子のように育った。性格と育った家こそ違うものの僕らはとても仲良しで、いつも動物園で遊んでいた。  人気の無い広い動物園を手をつないで見て周ったり、本来なら入れないような事務室とかも、もう閉鎖しているお陰で悠々と入れた。壁にかかっていた日直プレートで面子遊びをしたり、連絡用黒板に小学校から貰った、ちびて捨てられるところだったチョークで落書きをしまくった。夏になると、大人が白熊用のプールに僕らの胸くらいまで水をはってくれた。もとから飼育員が掃除をするために梯子がつけられていたから、全然危険なんかじゃなかった。小学校も高学年なると満タンにしてくれて、おかげで飛び込みは中々の腕だと僕らは思っている。秋になれば猿山の柿の木がたわわに実り、昔はボス猿が居座ったであろう、岩のソファーに腰掛け、もいで食べた。食後はサバイバル・ゲームで、気弱な僕はたいてい負けてしまった。反対に秋穂は強気な性格で、サバイバル・ゲームとか猛獣用の檻を利用したお姫様救出ごっこ(この場合お姫様はぬいぐるみだった)といった、普通なら男の子が好むような遊びを積極的にやりたがった。  そんな正反対な性格ながらも、僕と秋穂のお気に入りの場所は一緒だった。 象の檻だ。
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