流れ

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  雲が、流れている。 青く高い空を流れる雲は、決して同じ形になることはない。 さぁっと、小さな村に風が吹き抜けた。   田畑を耕す者、川で船を漕ぐ者。村に住む人々は、その風を当たり前に受けた。 温かい風だった。   季節は『スプール』。別の名では『春』、または『スプリング』。   「……いい天気だ。」   田畑を農具で耕す手を止め、村人は空を仰いで呟いた。   この世界、《ウィゼン・リーヴ》には、人間に二つの種族がある。 黒髪が特徴な『東人』。 金髪が特徴な『西人』。 二つの種族は文化が違う。代表的なのは文字。 東人の文字は『東字』と呼ばれ、複雑な字形で、一文字で意味を成すこともあれば、何文字かの組み合わせで成すこともある。 一方の西人の文字は『西字』。二十六字から成る記号を並び替えて、単語にするものだ。   今の季節は、東字では『春』と書き、西字で同じ意味を書いて読むと『スプリング』となる。東字は東人、西字は西人しか読めない。もちろん、学んで身につければ読むことはできる。   文字はこうも違うが、どちらの種族も共用の言語、共用の文字がある。例えば今の季節を共用語にすると『スプール』だ。なぜ共用語があるのに別の言語と文字があるのか、理由は詳しいことはわからない。人々は主に共用語を多く使う。   そんな世界から見ると、小さな村、名前を《サイル村》を、金髪で紫の瞳を持つ、年の頃が十七、八歳の少年が駆けていた。 額にうっすら汗を浮かべ、視線を彷徨わせ、何かを探しているようだった。   と、そこへ、子供が遊んでいるのか集団でやって来た。その全ての子供は金髪で、瞳の色はあまり統一されてない。 このサイル村は、西人が多く住んでいるのだ。 瞳の色は、血の繋がりがあると同じ色のことが多いが、主に家系ごとに色は別々だ。   「…あ!そこのちびっこ軍団!」   「ちびっこ言うなへたれイナル!」   イナル、と呼ばれた少年に子供の集団のリーダーらしき子供が声を張り上げた。  「へたれってなんだよ。第一ちびっこはちびっこだろ。言われたくなかったら俺の身長を越してみろ。」   「年齢的に無理だ!」   「じゃおとなしく呼ばれてろ。ちびっこ。」   「べっつに俺はイナルより精神年齢上だからいい。」  「何のことだか…。あ、それよりお前ら、ユーリ見なかったか?」   「ユーリ?なんか用?」   「また手合わせしようと思ってな!」  
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