雨の中の彼女

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「僕の家はすぐそこだから大丈夫だよ。  なぜ君は、こんな場所に突っ立っているんだい? 理由を聞かせてよ」  存在を拒まれ、なんだか僕は面白くなかった。なぜ、大雨の中、こんな所に一人で立っているのだろう。その理由を聞いてみたくなった。 「……たいしたことじゃないよ。ただ、失恋しただけ」  力無い笑みは、儚げに揺れる。 「そう、たいしたことじゃない……たいしたことじゃない――はずなのにね」  笑顔。  彼女は笑顔……だけど。僕には解る。  降り注ぐ雨が、彼女の涙を隠していることが。  僕が見た、彼女の瞳の潤みは間違いではなかったことが。 「好きだった……大好きだった。一生に一度の恋だと――思っていたのに」  僕は黙ったまま、聞いていた。ただの一言も発しもせずに。 「……雨は好き。 隠してくれるから、私のこの涙を。 流してくれるから、私のこの想いを」  気が付けば、僕の手から傘が離れていた。  なぜだか、こうしなければならない気がした。 「泣くなら、今だけ、特等席がここに」  僕の手から離れた傘が地に落ちる。 「――――!!」  彼女の小さな肩が僕の胸に収まる。  小さな鳴咽。  小さな身体。  冷たくなった身体。  彼女の震え。 「今だけ特等席。僕は何も見ない、何も聞かない。――だから、安心して泣いていいから」  なんて陳腐な台詞だろう。自分に自嘲して。 「う……うぁあああああ……!!」  泣き叫ぶ小さな身体にそっと優しく腕を回した。  その日以来、彼女とは会っていない。    僕は彼女と離れてから気付いたんだ。    あの大雨の中、佇む彼女に心を奪われていたことに――。  彼女に一目惚れをしていた自分に――。  そして、僕は今日も帰途に就く。 曲がり角でばったり彼女に出くわさないかと、そう願いながら――。 END
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