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「そろそろ、行くね」
「あぁ」
さようならを言う彼女を、俺は引きとめはしなかった。
俺のような存在に、彼女が声をかけてきたこと自体が稀有なことなのだ。
特に未練もなく、手を振る彼女に、俺も手を振った。
「ねぇ」
「………なんだよ」
「いつもここにいるの?」
彼女がどういうつもりで俺にそう聞いたのかはわからない。
けれども、答えなければならない気がして、俺は口を開いた。
「……あぁ、夕方はな」
少女は、ふぅん、と頷くと、のび過ぎたビルの影に消えていった。
俺はそちらに移していた視線を海に戻して、呟く。
「………ちょっと可愛かったな」
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