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「さて、もういいかな?」
麻耶がゆっくりとプラーナを掲げる。
煙を放出している煙草の先は歩夢の額のすぐ傍までよってきているが、歩夢は避けようともしなかった。
信じられないと思う常識より、断片的に浮かぶ情景が勝っているのだ。
もう何かを考える気力さへ湧いてこない。
どうやら自分は心まで死滅してしまったようだ。
『あなたの生き残る未来はないの、だから――』
あるいは、最初から他の選択肢はなかったのかもしれない。
生き残る未来がないのが正しいのではないか、とすら思える。
眼前で煙が揺らぐ。
揺れる。
ゆらゆらと
ふわふわと
未だに麻耶は動かない。
どうしてだろうか、と考えるのももどかしい。
煙はまだ揺れている。
いや、それは錯覚だった。
もう煙は揺れていない。
置き物ように止っている。
麻耶も止っている。
世界が呼吸を止めたかのような感覚が溢れ出す。
「僕は一体……?」
そうして再び、時計は時を刻み始めた――
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