第二章

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第二章

「……ん……ぅ…ぅん」 ふと目が覚めた。 「やっと目を覚ましたのね」 女の声が聞こえる。 「ここは?……俺は一体……?」 「ここはあたいの家……貴方は近くの海岸に倒れてたのよ」 「……そうか」 どうやら俺はまた死にそびれたようだ。 俺は、あのケフラカ城で死を選んだのに……。 全く滑稽な話だ。 女が言うには、半年も寝ていたようだ。 随分俺は長い間、意識を失っていたのだな。 「そうよ……ところで貴方名前は?……あたいはナターシャ」 「……俺には名などない」 「はっ?」 ナターシャと名乗った女が間の抜けた声を上げる。 「名など当に捨てた」 言い直した。 「それだと何かと困るねぇ……じゃあ、あたいが名前つけて良い?」 と言ってナターシャは俺にアークという名を付けた。 不思議な女だ。 素性の知らぬ俺に名など付け、一緒に暮らそうと言いだした。 俺は死のうとした身、それも悪くないと感じた。 気付くと俺は完全にナターシャに気を許していた。 俺の素性を一切聞かない。 それでいてよくしてくれる。 彼女との暮らしは、安らぎを与えてくれる。 それと同時に何かが心に突き刺さる。 このままではいけないと感じていた。 そう思いつつも時は流れ目覚めてから半年が経過した……。 「もう四月かぁ……あんたが来てから一年になるね。まぁ目を覚ましたのは半年前だけどね」 唐突にナターシャが呟く。 「ああ……」 いつものようにぶっきらぼうに返す。 その時、俺の頭に一人の少女の顔が浮かんだ。 リーム……。 彼女はの生まれた日、今月。 つい意識してしまう。 俺はリームを辛い運命辿らせた。 リームだけではない。 ローザも不幸に……。 そう俺と関われば不幸になる。 いずれナターシャも……。 だから俺は彼女の側にいては“いけない”。 俺は、彼女が眠りついたのを見計らって家を出た……。 「すまない……」 ただ、そう言い残し。 「アーク!アーク行かないでー!!」 ナターシャが叫びながらを追い掛けてきた。 次の瞬間ドンと、背中に衝撃が走る。 ナターシャに抱き付かれた。 「……どうした?」 「……もう帰らないつもりでしょう?」 どうやら気付いていたようだ。 彼女が俺の背中で泣きじゃくる。 振り返って抱きしめてあげたい。 だが、それでは彼女を不幸にしてしまう。 だから俺は振り向こうとする身体をグッと堪え、彼女を突き放した……。
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