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物資の搬入の立合いの為に港町ニールに訪れていた。
私の名はエイガー=フィックス。
フィックス領を治めている。
こうしてちょくちょく他の領地に足を踏み入れて立合いをしているのは、我が国を安定させる為だ。
この大陸は、いろいろな資源が失われている。
ケフラカがもたらせた精霊大戦の傷跡が今でも根強く残っているからだ。
世界崩壊は阻止されたが、このユグドラシル大陸崩壊は、免れなかった……。
あの戦いは、この大陸の大地を引き裂き、地形を歪め、水を汚染し、緑を蝕んだ。
結果、様々な資源が失われる。
しまいには、この大陸から魔法が消えてしまう有り様。
魔法は戦争に使われはしたが、本来は生活を豊かにする為に生まれた。
だが、肝心な時に失われてしまったのだ。
資源は無く、魔法で代用する事も叶わない状況である。
それでも人々は懸命に生きていた。
私も一国の王として、国民を護る義務がある。
そんな私を支えてくれると言ってくれた双子の弟マーシェは半年前から帰ってこない。
まぁあいつの事だ、引き裂けられた大地に挟まれようと、自らの肉体で身を守っているだろうから、心配はしてないが……。
話は変わるが港町ニールのワインは格別だ。立合いが終わると必ず酒場に寄り、ワインを口にしていた。
「エイガーさん、また来てくださったのですね。いつもありがとうございます」
ウェイトレスのレディがにこやかにワインを運んできてくれた。
「いや、君みたいな美しいレディがいたら毎日でも来たくなるよ」
いつものように返す。
レディが目の前にいたら口説くのは礼儀である。
「エイガーさんったら相変わらずお上手ですね」
初めて会った時は初々しかったのに、今では普通に返されてしまう。
それが少し寂しい。
「また殺られたらしいぜ」
「マジでぇ」
とその時、隣のテーブル席で物騒な話が聞こえてきた。
それが耳に入ったウェイトレスの表情が曇る。
「最近多いんですよ」
遠くを見つめながら呟く。
「何かあったのかい?」
私は訊いてみる事にした。
「……最近魔物達が活性化しているようなのです」
「魔物が?」
「はい……特に東の洞窟から来る魔物達が」
「東……?」
はて、そんな所に洞窟なんてあっただろうか……。
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