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~アーク~
俺は港町ニールに着くと真っ先に酒場に向かった。
この町は一年前と比べてほとんど変わっておらず、酒場の場所も同じだった。
とりあえず何をやるにも金だ。
まず仕事を探さなければならない。
酒場にはそういった話がある。
「何か金になる話はないか?」
マスターに声をかけた。
「それなら東に浮上した洞窟の魔物退治がある」
ん?
ちょっと引っかかる言葉があった。
「……浮上?」
怪訝そうな顔をして口にする。
「あんた知らないのか?」
マスターはこの大陸の現状を説明してくれた。
「……わかった。で、いくらだ」
納得した俺は話を戻した。
「6000Gだ」
「準備金として先に1000G欲しい」
「ん?……それ持ってトンズラするんじゃないのか?」
訝しげに返すマスター。
俺をどっかのトレジャーハンターと一緒にするなと胸中ゴチってしまう。
仕方ないと思い、辺りを見渡す。
そして俺の視点は、ある物を捉えた。
“それ”は手に届く距離。
厨房に手を伸ばし、それを手に取る。
「お、おい」
マスターの顔が青冷めて一歩引く。
おそらく、これで脅されると勘違いしたのだろう……。
それも悪くないが、この大陸の今の情勢など、情報が少な過ぎる。
そんな状態で騒ぎを起こすのは得策ではない。
従って俺は“ソレ”を無造作に後方に投げた。
そう……放り投げるように……。
ブスッ!……ザクッ!
突き刺さる音が響く。
見なくてもわかる。
俺の無造作に投げたソレは後ろのテーブルに置かれた食べ掛けのペキンダッグに突き刺さり、そのままペキンダッグごと壁に突き刺さった。
俺が放ったその“ナイフ”は壁から落ちる事はない。
マスターや其処にいた客はそれを凝視している。
「ちっ!」
それをよそに俺は舌打ちを一つ。
“シュッ!”……ザクッ!
って音を期待していたからだ。
ペキンダッグの残りの皮を切り裂き、そのままナイフだけが壁に突き刺さる事を……。
半年間の眠りに付き、目覚めてから半年間ぐーたらな生活をしていたのだ。
多少腕が落ちるのも致し方ない。
それでも俺は言葉を繋ぐ。
「次はその魔物がこうなる」
「……あんた凄いな」
マスターはまだ信じれないという面持ちで答える。
そして……
「わかった……お前さんに賭けて見るよ」
と言って1000Gを渡してきた。
俺は、その金で武器など必要な物を揃え、東の洞窟に向った。
そして洞窟であいつと再会する事になった……。
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