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仕方無い。
戻って誰か手伝ってくれる人を探そう。
「は~」
私は溜め息一つ溢し、出口を目指す。
出口近くまで行くと、一人の男が此方に向かって来た。
「やぁ…君も魔物退治かい」
右手を挙げて軽い挨拶をすると男は、思わぬ言葉で返しきた。
「エイガー」
「ん?何故私の名を?」
「いや……フィックスの王だからな」
有名だからと言いたい様子だが、何かに動揺している感じがした。
言葉を発する彼はそっぽを向いている。
そして確かに私は一国の王だが顔が漏れているわけではない。
従って、私の顔を知る者は他国では少ない。
彼の挙動や言動は、何かやましい事があるかのように思えた。
「ははは……それは私も有名になったものだな」
社交事例じみた言葉で返し、直ぐに真顔に戻し、先程の質問繰り返す。
「それで、君も魔物退治で来たのかい?」
「……ああ」
「じゃあ一緒に行かないかい?」
「……それは俺を雇うとこうか?」
「はぁ?」
思わず溜め息にも似た言葉を溢してしまった。
「違うのなら俺は一人で行く」
男は私の脇をすり抜け奥へ進み出す。
「ちょっと待ってくれ……君がそう言うなら、それで構わない」
私が慌てて引き止めると、男は振り返った。
「2/3は俺の取り分な」
また訳のわからないことを…。
「いや…報酬は全て君に渡す」
そう元々私は報酬目的で此処に来たわけではない。
「…?」
男が訝しげな顔をする。
まぁ当然か。
「私はとあるレディに頼まれ来ただけだ」
「フッ……」
男が薄く笑う。
何処か懐かしいものを見る眼差しでだ。
この男は……やはり何処かで私と面識がある。
そう直感した。
「わかった……良いだろう。協力しよう」
男は了承してくれたので、私も軽く微笑んだ。
「感謝する……この先は私一人で越えられなくてね困っていたのだ。ところで君、名は?」
「………」
男が一瞬戸惑う。
「失敬……名を聞くなら、まず自分からだね……私は知っての通りエイガー、エイガー=フォックスだ」
気まずい空気を避ける為にあえて、知られている名を名乗った。
「……アークだ」
一呼吸置いて男も名乗る。
おそらく偽名だろう。
「アークか……宜しい頼む」
偽名とわかりながら自然に返す事にした。
「……ああ」
おそらくアークと名乗る彼は私を知っている。
しかし、本当に何かやましい事があるなら、一緒に行く事を拒むだろう……。
それに私も彼と会った事がある気はしてならなかった。
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