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そうアークは…だが、そう決定付けるのは軽率にも思えた。
彼はあのケフラカ城から帰らぬ人となったのだ。
崩れゆく城から生還したとは思えない。
では目の前にいるアークというは男は一体何者なのだろうか…?
考えれば考える程、彼にしか思えなくなってしまう。
ピタッ!
前を行くアークが突然歩を止めた。
「どうし……っ!?」
どうした?と言いかけ正面を見ると巨大な壁が立ちはだかっていた。
「…行き…止まり?」
私がそう言うとアークは「いや」と答え、壁を登り始める。
さっきの崖と同じように、飛び出た10㎝に満たない突起を足場にシュッ!…タンッ!とリズム良く登って行く。
決して手を使う事なく脚力のみでだ。
やはりどう見てもアークは“彼”にしか思えない俊敏な動きをしている。
そしてあっという間に頂上まで駆け上がった。
彼は登りきると再び懐からロープを出そうとする。
「いや…今回は大丈夫だ!!」
私は下から大きく呼び掛けた。
そう…何度も彼に頼っていては、私の立場がないからな。
私は懐からボーガンを取り出す。
勿論ただのボーガンではない。
フィックスの科学力で機械処理を施した、言わばマシンボーガンだ。
普通のより、威力・飛距離が遥かに上回る代物である。
それにワイヤー仕込みの矢を装填し放つ。
ヒューン……ブスッ!
それは頂上付近に刺さる。
次にワイヤー巻き戻す。
機械処理により、それも可能なのだ。
そうすると自動的に身体が矢の方に引っ張られる。
こうして私も難なく壁を登りきった。
「フッ…」
アークが薄く笑う。
最初に会った時にのように何か懐かしいものを見るような眼差しでだ。
もうこうなると私の考えは確信に近いモノになっていた。
あの動き、雰囲気、喋り方、私と面識がある態度…それら全て考えるとやはりアークは“彼”に他ならない。
「……進むぞ」
直ぐに真顔に戻り、アークは奥を進み始める。
「ああ」
私も彼の後を追う。
その後、少し進んだ所で再びアークがピタッと止まった。
今度は壁や崖などない。
「どうした?」
私が尋ねる。
「……飛べっ!!」
ただそれだけを言い彼は高く飛び跳ねた。
「はっ?」
と言いつつも私も彼につられ飛んだ。
その刹那!
ビュンビュンビュンビュンビュンビュンっ!!
と先程まで私達が立っていた場所に触手のようなものが数本飛んで来た。
もし、あの位置から動いていなかったら、この触手の餌食になっていたのは一目瞭然だ。
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