第一章 覚醒

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町に到着すると、とある噂が持ちきりだった。 行くとこ行くとこ同じ話を聞く。 なんでもケフラカが倒れされたとか。 たった12人で、ケフラカの城に乗り込み、そのケフラカを倒し、ケフラカ城を崩壊させたらしい。 ケフラカとは、魔導の力で世界を崩壊させようとした奴だ。 世界崩壊までいかないにしろ、このユグドラシル大陸は崩壊寸前まで追い詰められた。 全くいい迷惑だ。 そういえばあの男がその12人の一人だったのかな? だからあんな傷だらけだったのか……考え過ぎか。 あたいは必要な物を全て買い揃え、家に戻った。 日は沈み辺りは、静寂の闇が支配していた。 時々聞こえてくるのは、魔物達の遠吠え。 男はベッドから一切動いていない。 あの傷だ……当然である。 ただ、シーツが真っ赤に染まっていた。 赤いシーツを使用していたという事ではない。 純白のシーツが染まっていたのだ。 勿論この男の血である。 確り替えのシーツは買って来ていたが、これを目の当たりしては、あまり良い気分はしない。 溜め息をつき、彼をベッドから降ろし、シーツを取り替えた。 あたいも一応女だ。 成人男性は移動させるのは、かなりしんどい。 休み休み作業を行った。 シーツを替えると、当然彼の包帯も替えた。 このまま戻したら、またシーツが、赤く染まってしまう。 一通り作業を終えると、天井からカーテンレールを吊らした。 そしてベッドをカーテンで囲む。 あたいも女である以上、人並みの恥じらいはある。 意識がないとわかっていても、男性の前で堂々と着替えるのは、気が引ける。 しかし、カーテンを張ったのは良いが、着替える事はしなかった。 いや、できなかったのだ。 気付くとあたいの意識は闇に呑まれていた。 流石に身体が限界なのだ。 海辺から男を運び、長時間に及ぶ治療、往復二時間かかる町までの買い出し、シーツや包帯の替え、そしてカーテンの取り付け。 もうヘトヘトで倒れてしまった。 せっかく買ってきた食べ物も無駄になる有り様。 全く迷惑な話だ……。
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