加害者側の訪問

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好きな女と生きていける幸せをいつも伝えてました。 息子相手に、付き合った時どんなに楽しかったか、私の子供を生んでくれてどんなに嬉しかったか、どれくらい幸せにしてくれたか、と家内の思い出をぽつぽつと語っているうちに涙がとまらなくなりました。 今思えば、この時になってようやく家内及びお腹の子の死を現実のものとして捉えることができました。 そう、悲しくて泣くことによって。 凍結した感情が解凍したことによって。 情けない父親でごめんな。 交通刑務所にいるトラック運転手から時折手紙が届きます。 謝罪をつづった言葉ばかりですが、行間から彼もまた苦しんでいる様子が伺えます。 人の命を奪った自分が生きていってもいいのだろうか、と。 また、彼の婚約者から毎月手紙とともに金が送付されてます。 最初は受け取りを拒否しようと思いましたが、考えを変えて新しく作った口座に預金しています。 彼が出所したらファイルに綴じた彼の手紙とともに通帳を渡すつもりです。 そして 「これらのものを背負いつつ、きちんと人生を歩んで欲しい」 と伝えるつもりです。 私たち親子もまた大事な家族を失った事実を背負って生きていきます。 私は父親として、社会人として一生懸命な背中を息子に見せ、息子の目に写る私は誰よりも強い男であるべく努めたいと思っております。 家内が安心できるように。 二人で頑張っていきます。 だから時々泣くことは許して欲しい。 誰にも分からないようにするから。
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