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昼間からはどことなく賑やかで穏和な雰囲気がする住み慣れた町。
今日の夜は冷え込むからと、妻が今年ようやく宝くじに当選し、貰った金額30万円の一部を使って夫であるトマイの好きな和風のプリントが施してある薄手のダウンジャケットをつい先日プレゼントで渡され、それを大事そうに着込み出掛ける準備をした。
休みの今日は昼間から家族揃って最近建てられたばかりの子供向けに作られたテーマパークに来た。
まだ3歳になったばかりの息子ミディを連れて。
「あ~、なんでこうなるんだ…?」
夕暮れが近付き夜はいつものレストランで済まそうということにし、妻とこの施設の事で歓談していたわずかな隙にミディが何処かへ居なくなってしまったのだ。
遊ばせずに抱っこしていれば良かったと後悔しながら、妻には一階の広場にある迷子センターへ、トマイは動いて探す事にした。
「ミディー、パパはここだぞー、ミディ、ミディ、バニラキャンディあるから出てこーい」
これ好きー!とはしゃぎながら飽きてもおかしくない程に遊んでいた三階のふれあい広場の木製のウサギの形をした小さな滑り台付近を捜すが返事はない。
もう閉館が近いというのにまだミディと同じくらいの子供が沢山いる。
施設の広さに捜す途方も暮れ、朝から丁寧に整えた頭を軽く掻きむしる。
その時、後ろからジャケットの裾を僅かに引っ張られた感覚が伝わりやっと出てきたかと振り返る。
「パーパ!パーパ!」
「心配したぞー、ミデ…」
背丈は3歳児、髪色は同じ落ち着いたブラウンのショート。腕にはビビットカラーに彩られた可愛らしい腕輪を着けていた。だがミディではない。余所の子供だった。
「お前も迷子かあ…でも俺は君のパパじゃないからなー。」
それでもパパと繰り返す子供を抱き上げ、報告も兼ねて迷子センターへと足を運ぶ。
もう一度捜さねば。
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