0人が本棚に入れています
本棚に追加
センターの直ぐ側に椅子があるというのに、妻はずっと立ちっ放しで顔を曇らせていた。
まだ見つかっていないことが判るとトマイは肩を落とした。
多少崩れてしまった髪もまた、前髪がはらりと垂れ下がる。
「人違い、いや子違いだった。けど、この子も迷子らしいから連れてきたんだ。」
そう。と短い返事をし、同じく肩を落とす妻。
迷子の子は依然ときゃっきゃ言っている。
腹立たしくなるが仕方がない。
「もう一度、捜して来る。
今度は見つかるから心配するなよ。」
丁度行こうとしたその時、後ろから泣き声が聞こえてきた。小さい子はやはり声自体が似ている為、誰がどの子か判らなくなる時がある。同じくらいの小さな子、また迷子かと何となく顔を声のする方へ向ける。
「ミ、ミディじゃないか!」
見知らぬ夫婦だったが、連れてきてくれたことは変りない。未だに大声で泣く息子の元へ妻とトマイも駆け寄った。
「ずっとパパー、ママーと泣いていたので困っていたんですよ。
実は私達の息子も迷子になってしまって。」
「ひょっとしてこの子…ですか?」
トマイが連れてきた子供と同じ柄の腕輪をしている夫婦を見て、まさかと思い相手夫婦側から顔が見えるように抱き直す。
「あぁ、クラン…」
互いに胸を撫で下ろし、子供たちを元の親へ返し一安心することができた。
「ミディ、ほら、だーい好きな棒付きバニラキャンディですよー」
まだ泣いている息子に妻はカバンの中からそれを取り出し手に持たせる。すぐに泣きやんで笑顔に変わる。
どうやら向こうも御礼を言いたげだった。すると妻が嬉しそうに言った。
「私達これから外食に行くんですけど、きっと何かの縁もあって会えた訳ですから、是非ご一緒して下さい」
こうなってしまえば断ったとしても強引にでも連れて行くことをトマイは熟知している。だからそうならないようトマイからも促す。
「遠慮せずにどうぞどうぞ。
うちのミディも迷惑かけましたから」
相手夫婦は少し戸惑った後、遠慮勝ちに申し出を受けた。
最初のコメントを投稿しよう!