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馨にも、そのうちの一人が勢いよく斬りかかって来る。
無表情な馨に対し、相手は命を賭けた斬り合いだと言うのに薄く笑みを浮かべていた。
まるで楽しんでいるかのような笑みを浮かべたまま、鋭く上から斬りつける。
キィンッ‥‥!!
高い音で、馨の目の前で三本の刀が鳴く。
交差された刀に挟まれるようにして止まった己の刀に、相手は僅かに驚きを見せて一歩下がった。
「‥‥っ、」
鋭く振り下ろされた一閃は思ったよりも重く、馨は僅かに痺れが走る手を忌ま忌ましげに見る。
今のは防げた。
だが、次はどうだろうか。
長い鍔競り合いでの勝利は期待出来そうになかった。
同時に、
――他の浪士が来たら。
そんな不安も駆け巡る。
と、その時だった。
それまでの数秒間、弾かれた己の刀と馨とをじっと見比べていた隊士の顔に、再び笑みが浮かぶ。
「土方さーん。この黒い方、僕が相手していいですよね?」
その声は場にそぐわないほどに明るく、無邪気なものだった。
ぽかんとする馨をよそに、雇い主である男と刀を合わせていた土方はそれを軽く弾き、苛立たしげに眉を寄せる。
「‥勝手にしろ!ただし遊ぶんじゃねぇぞ!」
「勿論。ちゃんと最後は殺しますよ」
「‥分かってないだろ、てめぇ‥」
土方は呆れたように溜息をつくと再び男に斬りかかって行きながら声を張り上げる。
「おい、聞こえるか!此処は俺と総司で片付ける!他に手ェ貸してやれ!」
その指令を受けとったらしい浪士たちの声が聞こえると、部屋の外の喧騒は僅かに遠ざかる。
そこまでの流れを満足そうに眺めていた馨の相手は、再び刀を構えて向き直った。
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