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はて、誰に? んなこた知るか。
わからないなら、そのままにしておいた方がいい。
変に意識をそっちに持って行ってしまえば、気づかれてしまう。
簡単に人の目に入るものではないのだから…――。
「ちょっとーっ、新人! 次、六名ご案内! その次ー……五名いくから!」
のんびりできるかと思いきや、爆睡しているうちにその次の日というのはあっという間に来てしまい、仕事の簡単な説明というやつも気づけば終わり、俺はピーク時の受付に立たされ、彼女に言われるまま客を案内している。
「お待たせ致しました。ご案内いたします」
過去の仕事経験から営業スマイルってやつをフル活用して三十分近く待った家族連れを案内してダッシュで受付へ戻る。
実はさっき、のんびり歩いていたら怒られた。
客でごった返すこの時間に一息つく暇はない。
まだ満足にオーダーを取れない俺は、彼女の視界に入るたびあちらこちらへ飛ばされる。
「新人、こっちはいいからドリンク持って行って。ちょっとー! ビールぬるくなってんでしょ! こんなの出せると思ってんの!? 作り直しっ」
そしてまた。受付の柱のすぐ横にあるドリンク場に身を乗り出して叫ぶと、彼女は冷凍庫から出したグラスに注ぎ直されたビールを俺に手渡して、大変お待たせして申し訳ございませんと言いなさい、と伝票とともに俺の背中を押した。
受付がこんなに近くにありながら叫んでも待っている客が驚きもしないのは、そうしなければ声が届かないほどの笑い声や話し声が重なり過ぎて、普段の声量では聞き取れもしないからだ。
伝票のテーブル番号を確認しようと視線を落とすと、美味しそうなビールが俺を誘惑する。
さっきから喋りっぱなしで喉渇いてんだよ。
飲みてー!
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