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 病室の中で今日、娘の誕生日をむかえることになった。  小学六年生の娘は、六年三組の教室に一度も入ったことがない。いつの間にか「仕方がない」と「大丈夫」が私の口ぐせになっていた。  ベッドの上で昏々と眠っている、チューブにつながれた娘の顔を見つめる。  どんな夢を見ているのだろうか。娘の顔はほんのりと笑っているように見える。それにつられるかのように、私も娘に微笑み返した。  私が娘の頬をなでていると、沈黙をさえぎるようにして、娘の友だちの洋子ちゃんが病室に入ってきた。 「おばさん、こんにちは」 「こんにちは」  洋子ちゃんは、私に会釈してから、いつものように娘あての手紙を私に差し出してきた。手紙はいつも娘の枕元に置かれた、紙袋の中に入れている。  手紙は何通、入っているのだろうか。おそらく三○○通は越えている。  洋子ちゃんは、娘に近づき、ささやくように言った。 「おたんじょうび、おめでとう」  じわじわと、あついものが胸に迫ってくる。  娘には絶対に読んでもらいたいと思う。私も読んだことのない、洋子ちゃんのたくさんの手紙。
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